「強いゾラニ・テテ」との邂逅 井上尚弥「相性最悪」な相手との決戦

 

 

そんなことで、5月2日が迫って来ましたので、事前に予想...は当たりもせんので止めておきますが、色々と思うところを書いておきたいと思います。

 

井上尚弥の側からいきますが、公開練習では好調を伝えられています。
何しろ下肢のバネが効いていて、この感じでリングに上がったら、前後左右自在に動いて、斬り込んだりお迎えしたり、何でもやってのけることでしょう。
最近の数試合をトータルで見たら、やはり30過ぎて色々水漏れ、失速も無いとは言えないか、という括り方も出来る井上尚弥なのですが、そういう常識は、このお方には通用しないんでは、と改めて思い直しているようなことです。


もちろん、公開練習で良くても、試合当日いまいち、ということもありましょうし、歴史上、というか過去には、そういう事例も数多あります。
とはいえ、井上尚弥とその世代のボクサー達が見せてきた、コンディショニングの安定度を考えると、おそらく無用の心配でしょう。

 

ただ、トレーニングキャンプの様子を中心に構成されたドキュメンタリーでは、ひとつ気になるコメントがありました。
中谷潤人との相性は?と問われた井上尚弥が「最悪、じゃないですか」と、当然のように返したものです。


もう10年くらい前になりましょうか。井上がスーパーフライ級で活動していたころの話です。
さる筋によると、井上はその頃「最近、ゾラニ・テテの試合に興味があって、よく見ている」と語ったのだそうです。

南アの長身サウスポー、ゾラニ・テテはスーパーフライやバンタムにおいて、井上の対立王者だった時期があるので、当然、将来の対戦を想定してのことか、と思ったら、違ったそうです。
将来、自分を攻略しうる対戦相手はどういうタイプか、と考えてみると、上の階級における、長身のサウスポーであろう、と思い至った。
で、たまたまそのタイプに合致する、テテの試合に興味を持って、見ているのだ、と。それが井上尚弥の説明だったそうです。


結局、テテはWBSSに参戦したものの、井上との対戦を待たず、負傷を理由にトーナメントを離脱しました。
マイク・タイソンとの対戦に至る過程において、HBOトーナメントから離脱したマイケル・スピンクスに倣ったか、と見えましたが、その後ジョンリエル・カシメロに敗れたため、井上との対戦は叶いませんでした。
もちろん、実際に対戦すれば、バンタム級で無双状態だった井上が、捉えて倒したでしょうが、井上が自身を攻略しうる可能性があるタイプ、と見做した長身サウスポーのタイトルホルダーとの対戦は、勝ち負けはともかく、どんな様子になるものか...見てみたかったなあ、と思うカードではありました。

 

そして時が経ち、日本ボクシング史上最大の決戦、と目される試合で、井上尚弥の対角コーナーに立つのが、まともにそのタイプです。
中谷潤人。フライ級、スーパーフライ級のWBO王座獲得。リングマガジンのKOオブザイヤーも。
バンタム級ではWBC、IBF王座の二冠王。それ以外の王者との対戦が実現していれば、井上尚弥に続いて、十中八九、全部統一していただろう、と思わせる強さを示しました。

長身、サウスポースタイル。痩身の見た目に反して、インサイドへの鋭い左右アッパーを得意とし、インファイトがめっぽう強い。
離れての左ストレートは精度高く、パワーも充分。上下の打ち分けのみならず、相手の読みを外す連打攻撃の組み立てが多数ある。
その上、好機で見せる「キラー・インスティクト」殺傷本能は、見る者を戦慄させること、度々。


言わば、中谷潤人は「強いゾラニ・テテ」というべき存在であり、井上尚弥は自身、二度目の東京ドームにおけるビッグマッチで、かつて想定した「自分を攻略しうる」タイプの強化版と闘うことになります。
中谷は直近の試合で、タフな相手に打ち合いをして苦戦しましたが、序盤の内はジャブ突いて、左当てて上下当てて、打っては突き放す、離れるという攻防で、完全に優位な展開を作っていました。

それを半ば、自ら手放したような試合運びで苦戦しましたが、さすがに今度は井上尚弥相手、そんなミスを繰り返すとも思いません。
中谷が長身とリーチを最大限に生かし、ジャブ突いて、左狙って、井上が斬り込んでくる左右いずれかのルートを、アッパーのお迎えで潰すような、そんな立ち上がりになることも、充分に考えられます。

 

しかし、対する井上の側が、長らく想定していた、難敵の強化版攻略プランは、実はそこから始まるのかもしれません。
中谷のジャブを外す、或いは払うタイミングでの切り込みか。
左ストレートに対し、左側へ身体を沈め、軸をずらした位置から、右ストレートリードを中心に組み立てるか。逆ワンツー、左フックも狙えるか。
さらに、アッパーのお迎えを想定して、右ストレート以外にも、左フックを被せて対抗し、中谷の右旋回や迎撃を抑えにかかる?
さらに、中谷が攻めて出るなら、ファン・カルロス・パヤノ戦で見せた右アッパー迎撃や、ワンツーストレートによる攻撃が再現されるか。


5月2日のドームで、井上尚弥が中谷潤人に対して見せるボクシングは、中谷個人との対戦が想定された頃より、もっと前から始まった、自身を脅かしうる強敵との対戦想定に基づいたものなのかもしれません。
ドキュメンタリーのインタビューにおいて「(相性は)最悪じゃないですか」と返した井上尚弥の表情は、その答えに反して、実に落ち着き払ったものでした。

「強いゾラニ・テテ」との邂逅。その闘いにおいて、井上尚弥は、我々の眼前に、どのような答えを見せてくれるのでしょう。

 


当日、リングの上で、どのような攻防が繰り広げられ、展開が決まるものか。
色々と考え出すと止まらず、とにかく、早く当日、試合の日が来て欲しい、と思うばかりです。
思うことは色々あって、うまくまとまらない(←それはいつものことやないかい)ので、何回かに分けて書きます。続きはまた後日、ということで。