さて、配信終了時間22時50分という、怖ろしいことになったU-NEXTボクシング世界戦第三弾ですが、メインはまさかの結果でした。
寺地拳四朗、リカルド・サンドバルに2-1の判定で敗れ、WBC、WBAフライ級タイトルを失いました。
ここ何試合か、以前のように自由自在に外して、相手の読みを外して狙うカウンターやコンビネーションを、ハイテンポで繰り出して打ちまくる、という闘いぶりが影を潜めつつあった寺地拳四朗ですが、今回はこれまでにない「防御率」の低下が、試合全般を通じて出てしまいました。
リカルド・サンドバルの右カウンター、被せや相打ちは、なるほど拳四朗の主武器たる左ジャブを逆に「狙い打ち」することで、その数と効果を減らす意味があったと思います。
また、減量苦のあったライトフライ級最終戦で、カルロス・カニサレスにきっちり取られたカウンターの印象も、サンドバルと陣営にはしっかり残っていたのでしょう。
ならばと、拳四朗が相打ちを逆に狙ったのは、いかにも彼らしい高度な発想ですが、このパンチが何度当たっても、サンドバルにダメージを与えたり、食い止めたりする場面は、ほとんど無かったように思います。
ボディ攻撃も奏功したとは言い難いし、傍の目が追いつかないようなコンビネーションを繰り出す余裕も見えず。
そして、何よりも防御です。
ロサンゼルスでルディ・エルナンデスに指導を受けたという話でしたが、頭や上体の位置を変える防御を取り入れたということの是非を言う以前に、足で外す防御が全然冴えませんでした。
足が動いていないぶん、上記のような要素を取り入れようとしたのか、と試合前は思っていました。
しかし、そんな微妙な話ではなく、単純に、あれだけ攻撃の前後共に手を出され、打たれてしまうと、どうしたって苦しい。
5回のワンツーによるダウンシーンは、ワンとツーの間を詰めた、タイミングの切り換えによる一打で、あれは見事でした。
ただ、その後のサンドバルが見せた奮闘があったとは言え、攻めてはパンチの威力、精度に欠け、守っては頻繁に打たれている。
判定が割れたと聞いたときは、正直驚きました。最終回を拳四朗に振っても、普通に見て、逆なんてあり得ない内容に見えました。
もちろん、普通じゃ無いことが起こるのも、ボクシングの残念な現実ではあるんですが。
とにかく、ほとんどの回で有効打、手数、攻勢とも劣っている。これでどうして?と。
結果が然るべきものだったことに、安堵したようなことです。
試合後のコメントなどを確認していない段階ですが、数々の素晴らしい試合...というより、驚異的なパフォーマンスの数々を残した、古都のスマイリング・アサシン、寺地拳四朗の神話が、今日、この日に終わったのだ、と思います。
独特の間合い、誰の予測をも超えるハイテンポ、変則かと思えば正攻法、かと思えば一見して何をしたのかわからないような攻防の組み立て。
自在に外し、動き、打つ。その巧さと強さ、という表現では説明の付かない、「マジック」を伴った闘いぶりで、他の誰とも似ていない、比べられない色彩を見せてくれた。
その彼が、果敢、懸命を振りかざす「のみ」の挑戦者に打ち負けてしまった。
フライ級での体格面における不利なども作用したのでしょうか。或いは、強敵相手との試合が続いたこともあって、ある種、エアポケットに入ったような試合だったのかもしれませんが。
とはいえ、今後についてどういう決断をしようとも、彼がかつての姿そのままに甦ることはおそらくないでしょう。
それは彼がやってきたボクシングが、あまりに高度で、難易度の高いものだったから、でもあります。
階級を上げることで得たもの、失ったものの収支がどう、という話で解決出来るような次元で、彼が再起し、闘うとも思えないですし。
どのようなボクサーであろうとも、チャンピオンであろうとも、誰に負けずとも、時の流れには勝てない。
その現実を、また見たのではないか。今はそんな風に思っています。
同じリングで、眩いばかりの輝きを放った、新たな陽、高見享介と入れ替わりに、「落陽」を見たのだろう、と...。