要所で巻き返しに成功した タノンサック、谷口将隆を僅差で振り切る




ということで日曜住吉感想続きですが、この日一番見ていて気が入ったのは、セミのタノンサック・シムシーvs谷口将隆でした。
初回KOふたつにも衝撃を受けましたが、それこそ気疲れするくらいの、緊迫の12ラウンズでした。

初回、2回は谷口は好調。2回は左ヒットでタノンサック、後方へぐらつく。ちょっと足もかかっていたが、好打であることは間違いなし。
しかし序盤、好スタートの谷口に対し、3回タノンサックがプレス強めて叩きにくる。この切り換え、厳しい戦況判断には感心。

谷口は好調なとき、足で捌かず離れずに、割と近めの間合いで止まってダッキングで外し、広いスタンスのまま、止まることがある。
相手の打てる間合いで外して、自分が当てる、という勝負をしている、と見え、それは谷口のセンスと自信ゆえ、ではあるか。
しかし、タノンサックのような強打者相手なのだし、やはり当てたらすぐ動いて外すべき、とも。
少なくとも序盤の内はセーフティーな判断を...と思っていたら、そこに右を食って、今度は谷口が少しぐらつく。

タノンサック、展開を変えにかかる切り換えと同時に、最初は当たらなかった右ストレートリードを、平行スタンスで距離を縮め、軽めに打つ型に変えてヒットさせる。
また、左からリードし、それがアッパーを織り込んだ攻め口だったりもする。
単にパワーではなく、攻めのルート自体も、色々工夫が見える。

4回から7回まで、激しい攻防が続くが、全体的にタノンサックの方が強く正確なヒットで上回っていく。
谷口は左上下とも、時折好打があるが、それに倍するタノンサックの攻撃に、失点を重ねているように見えました。

しかし7回終盤、そして8回から再び、谷口が盛り返す。
左ボディストレートのヒットが徐々に効いてきた、そして3回から無理をして反転攻勢を続けてきた疲れもあるか、タノンサックが失速気味に。
谷口良い回りのリズム。10回には軽い連打を上に集め、タノンサックの出鼻に左ストレートを再三ヒット。上下のコンビも決まる。

このまま押し切れば逆転判定勝ちもあるか、と思えた11回、早々にタノンサックが出る。
セコンドに活を入れられた?或いは、明確な指示が出た、か。
タノンサックの左アッパー上下、ボディが効いたか、谷口手が止まり、タノンサックの追撃を受ける。
鼻梁を小さく切った谷口、さらにタノンサックの右で攻められ、この回、痛い、痛い失点。

最終回、今度はタノンサックが押し切るかというところでしたが、谷口再び奮起。
懸命に手数を出して攻める。互いに際どいタイミングで右が交錯。この回は谷口か。

判定はいずれにしても僅差と見えたが、やはり割れて2対1、タノンサック勝利。
8対4タノンサック、あとは7対5で割れました。
私は10回終了時でイーブンと思ったので、終わってドローか、どちらか僅差勝利か、いずれの結果になっても納得でした。



率直に言って、谷口は序盤の闘いぶりがもう少し慎重だったら、という意味で惜しかった、と思います。
あと、強敵相手に健闘して迎えた終盤、無理もないとはいえ、11回の立ち上がりに打たれたところも、好調なときにミスをして(というのも酷ですが)打たれてしまうことがある、谷口の欠点が出た、という印象が残りもしました。

しかし試合全体を見て、谷口は自分の力を出し切ったと思います。
試合後、やれることはやりきった、という主旨のコメントをして「引退示唆」という記事が出ていましたが、その是非はともかくも、彼がボクサー人生の集大成とするべく、この試合に全てをかけて闘い抜いたことは間違いないでしょう。
その闘志、熱量は試合全般を通じて、ひしひしと伝わってきました。本当に、素晴らしい試合を見せてもらえたと思います。



勝ったタノンサック・シムシー、その闘いぶりは、単にセンスがあって強いだけじゃなく、苦しい展開からしっかり反撃、逆襲する確かさが見えました。
3回に、早々から無理をしてでも?展開を変えにかかった労力は相当なものだったはずですが、そこから巻き返されて迎えた11回にも、また逆襲に出て、僅差ながらも勝利をたぐり寄せた。
正直、終盤にはこのまま谷口が押し切って終わるとばかり思っていたので、これは驚かされました。

おそらく、セコンド陣が活を入れたか、厳しく指示したのではないか、と見ていて思いました。
そしてそれは、日本のリングにおける判定傾向などを知悉した日本人セコンド、本石会長の判断が反映されたものだったのではないか、と。
生涯の内、何度か日本に来てセコンドをする、というだけの外国人セコンドだけだったら、あれほど明確に、意図を持って展開を変えに行く、というタノンサックの闘いぶりは実現されなかったかもしれない、と思います。
タノンサックが勝ち得た僅差の勝利は、色々な観点から見ても、非常に中身のある、見応え充分なものでした。こちらも素晴らしかった、と称えたいです。


さて今後、これでIBF2位のランクが決まった...はずですが、1位クリスチャン・アラネタの動向、そして何よりかつて一度敗れた王者、矢吹正道と陣営が、どのような選択をするのか、不明な点ばかりです。

それよりも、OPBF王者であるタノンサックには、今月26日に、カルロス・カニサレスパンヤプラダスブリの間で行われる、WBC空位決定戦の勝者への挑戦を目指す可能性も、あるのかもしれません。
WBCランクは1位カニサレス、2位パンヤ、3位エリック・ロサで、4位がタノンサックですが、ロサはWBA方面に行くみたいですし、今回谷口に勝ったタノンサックが、次は1位に上がる可能性もあるでしょう。

もしそうなったら、今回のように、U-NEXTボクシングの枠組で、タノンサックの世界挑戦もやってほしい...というのは、現実的に難しいのでしょうか。
中央リングでの活躍がないぶん、注目度は低いのかも知れませんが、クリスチャン・バコロド、矢吹正道、浅海勝太、ミエル・ファハルド、そして今回の谷口将隆と、日本のリングで強敵相手に闘ってきたタノンサックの実力と、力と技で敵と切り結ぶ闘いぶりは、充分に日本のファンにとっても魅力あるものです。
それこそ西のアンソニー・オラスクアガじゃないですが(笑)そのような形で、今後も彼の闘いを見たいし、応援したいと思っています。