懸命に、賢明に危機を脱するも、不安の影色濃く 長谷川穂積、二度のダウンを挽回し辛勝
昨夜は神戸にて観戦してきました。
場内は空調の加減もあったのか、ちょっと肌寒い。
客入りも普段のこの会場での興行と比べれば盛況ではあるものの、前回のオラシオ・ガルシア戦よりは
二階にけっこう、空席も目立ちました。一階は前回同様、ほぼ満席でしたが。
これは相手選びが難航したことを始め、様々な要因があるのでしょうが、
やはり前回、無敗の強打者相手の試合に、誰もが感じた危機感、長谷川のキャリアがこれで終わるのか、
という切迫感が、今回の相手の戦績、経歴からは感じられなかったからだろう、という印象でした。
他人事みたいに書いていますが、何より自分自身がそうだったから、よくわかるというだけのことです。
確かに一階級上のWBO5位ではありながら、ランカー歴も浅く、KO率が高いわけではない。
契約体重もフェザー級プラス1ポンドに抑えてある。
長谷川にも前回の試合で苦しんだ足の負傷を始め、ベテランなら当然いくつか不安要素はあるにせよ、
同時に前回見せた、防御に留意して、無駄を省いた技巧のボクシングに徹すれば、無難に勝つだろう。
だいたい、そんな風に思っていました。
ただ、試合の前々日になって、ふと思い立ち動画を検索してみたら、思った以上に数があり、
のんびり見ていたら、あれ、これは思ってたより...となったのは、前記事に書いた通りです。
多少、危機感が増した中、会場に足を運びました。
しかし、実際にはそんな程度の話では済みませんでした。
初回、2回は探り合い、フェイントかけて徐々に打っていく長谷川穂積に対し、
カルロス・ルイスは右から入って圧力をかける、という流れでした。
この序盤から3回までに気になったのが、ルイスが見せた左アッパーでした。
クリーンヒットこそありませんでしたが、これを時にリード、時にカウンター気味に打っていました。
対サウスポーに左アッパーが出せる選手は、まず一定以上のレベルにあると見て間違いありません。
サウスポーにしたら、自分の右腕の下を左アッパーが通るのは、凄く嫌なことなのだそうです。
このパンチ自体が見にくくて、避けにくい上、その軌道が目に残り、他のパンチがより生きてくる。
さらに、サウスポーの右回りを妨げ、左に寄せておいて打つ右が当たる確率を高める効果もある、と。
しかし、この辺は「そう言えば、動画では左相手の試合ぶり、どうやったかなー」と、ぼんやり思う程度でした。
嫌なパンチながら長谷川も外していましたし。
ところがこの回終盤、やや優勢かなと見えていた長谷川が、右を出したあと、一瞬上体を逃がさずにいるところに
ルイスの右がクリーンヒット。長谷川がまともに打たれてダウンしました。
いささか唐突に見え「え、何で?」と思ったのが正直なところです。
両者の体格には、一見してあからさまな差は感じなかったのですが、微妙なところで距離の差があり、
パンチの伸びを読み違えたりすることはあるか、とは思っていましたが、どうもそういうのとも違うようでした。
ラウンド終盤だったおかげで、ゴングに救われた長谷川、4回は相手の足に自分の足を乗り上げてしまって?
スリップする場面はありましたが、鼻血を出しつつ左で反撃。ところが5回、似た右で二度目のダウン。
大量の鼻血が出ていたことも含め、かなりダメージ甚大に見えました。
それに、同じように右を伸ばしたあと一瞬止まって打たれる、という形が繰り返されたこと自体も、
これをいったいどう見たら良いのか即断しかね、理解できないという気持ちでもありました。
しかし重苦しい雰囲気が流れた試合の後半は、もちろんハラハラし通しだった反面、
長谷川が前回同様、危機に瀕してもなお、懸命かつ賢明に試合を運ぼうとする意志が見えたのも事実でした。
6回以降、ルイスが安定したペースを維持する反面、爆発的な攻めの上積みに欠けることもあり、
長谷川はよく動いて左を当て、毎回のように巧くポイントを抑えていきます。
左ストレートを下に散らし、時に上に返し、アウトサイドから捨てパンチをまじえつつ、相打ち気味にヒット。
ルイスの右ストレートに脅かされながら、ロープ際に追われても、すぐに回って脱出し、
時に自らクリンチに出て、流れを切り、試合を「冷ます」場面も見られました。
もちろん二度ダウンのダメージは心身ともに見えましたが、そういう苦境にありながら、
ひいき目なしに、全体的には試合をまとめていく、という印象。
この辺は、40戦のキャリアを持つベテランらしい風情が見えました。
最終回は左ボディがルイスにダメージを与えたのを見ると、強引に連打で攻め込み、場内を沸かせる。
ポイント的には逆転しているだろう、という印象をより強めて、試合を終えました。
採点はちょっと迷う部分もありましたが、95ー93か、96-92で長谷川、と見ました。
長谷川がダウンした3回と5回以外に、ルイスが明白に抑えた回がいくつあるか、というのが問題ですが、
私は長谷川に辛くつけてもひとつあるかないか、という印象でした。
ざっくり言えば、ダウン以外は巧くまとめた、というのが全体的な印象ではあります。
長谷川本人が強調するように「ダウン以外は全部取った」という見方も充分ありえるでしょう。
バンタムから上げてきた長谷川が、スーパーフェザーから落としてきて、なおかつそれによって
戦力を削がれたというでもない22歳の相手と闘うこと自体、思う以上の苦難だったとも言えます。
相手の体格は見た目以上に脅威であり、パンチ力もまた、KO率以上のものがあったのでしょう。
もしSバンタムまでの相手なら、うっかり打たせても耐えられるが、今回はそうではなかった。
そう割切れば良いだけの話かも知れません。
今回、新たな筋力強化のトレーニングを導入したこともあり、足首に怪我を抱えて闘った前回より、
動き自体は安定しているように見えました。しかしそれにより、若干ではあるが、動きの柔軟さや
身体を運ぶ速さ、攻防の切り替えのキレが落ちていたとしたら、その僅かの損失が、時に致命傷になりうる。
そういう怖さを見た試合であり、良い意味での教訓となった試合、と見るべきでもありましょう。
しかし、ボクサーの衰えというものは、時にスピードやパンチ力の減退、というもので量られがちですが、
長谷川穂積のような特殊な才能の持ち主については、それだけでは収まらない尺度があることでしょう。
やはり理屈ではない防御勘というか、感覚の部分での衰えが、まるで再生VTRのごとく繰り返された、
二度のダウンシーンの原因なのだとしたら?
その答えは、まだ見えない彼の先行きにしか見出すことは出来ないでしょうし、見方はさまざまにあることでしょう。
しかし、あの長谷川穂積が一試合に二度もまともに打たれて倒された、その事実は改めて驚きであり、
当然ながら不安の影が色濃く残った、と言わざるを得ない、そんな試合でもありました。
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そういえば昨日放送のG+では、試合後の控え室インタビューがけっこう長く流れていました。
「ダウン以外は全部取ってる。悪い記事書くところの取材は受けへん」と
冗談を混ぜつつ強弁する長谷川には、ベテランになってもなお、完全な成熟を峻拒する、
若さの名残のようなものが見えて、微笑ましくもあり、少しだけ物悲しくもあり、なんとも言えない気持ちになりました。
非常に興味深く見ることが出来たインタビューでした。こういうのはCS放送ならではの良さですね。
※長谷川ブログによると、本日「せやねん」に生出演するのだそうです。
また後日、動画紹介したいと思います。
※取り急ぎ動画紹介。数日で消えますのでお早めに。
大分腫れがある顔ですが、元気そうではあります。