ビジーファイトを回避した賢明 ベテルビエフ、前戦の教訓生かす完勝




ということで昨日はWOWOWオンデマンドのライブ配信、楽しく見ておりました。
カナダからというのは珍しいですが、場内大盛況。
フランス系の選手なんかも出ていて、その辺のカラーも興味深いところ。
4試合配信ありましたが、それぞれに見どころあり、好ファイトありで、当たりの興行だったのではないでしょうか。


メインの世界ライトヘビー級トリプルタイトルマッチは、チェチェンの鉄拳アルツール・ベテルビデフが、前回に続いて英国のスターボクサー、カラム・スミスを迎え撃つ。
前回のアンソニー・ヤード戦における、打ちつ打たれつの激闘を経て、その影響が残るようなら王座陥落もあり得るか。
仮にあの試合を省みて、改善する点があったとしても、重いクラスの王者があれだけ打たれたことは、軽く見過ごせる話ではない。
スミスが先手で勝負賭けて、その上で突き放し、外すような回りになったら...と思っていましたが、いざ試合が始まると、先に出たのはベテルビエフの方でした。


ベテルビエフ、開始早々、連打して出て、まずひとつ踏み込む形を作った。
20秒くらいで、一旦見合う形になり、スミスも構え直してジャブ、ストレートの間合いを徐々に取れてはいるが、やはりベテルビエフが先に攻めた影響はあり、スミスはどうしてもリング中央に立てない。ロープに近い位置にいる。よろしくない。
2回はスミスがポイントを取ったが、ベテルビエフは圧力をかけつつ、しかし要所で振りの小さいパンチを当てるに留める、という流れを維持する。


この辺、前回のヤード戦のような、打つ機会もあれば打たれる機会も多いビジーファイトを、意識して回避しているという印象でした。
焦って打ちに行かずとも良い、序盤のうちはポイントを落としても良い、徐々に削っていこう、という。


強打者にじっくり構えられ、落ち着いてじりじり来られることほど、相手にとって嫌なこともないでしょうが、スミスは間合いのある分、ジャブやワンツー、左返しまで、良いパンチを打っていく場面もあり。
しかし思うように突き放せているかというとそうもいかず、時に好打はあるものの、ベテルビエフの振りの小さいジャブ、右ボディなどを打たれる。

そうして序盤3回が過ぎると、4回にはベテルビエフが軽いパンチ(彼にしては、ですが)を連打で繰り出す。
間を詰めて、スミスが打ち返せないバランスになると、嵩にかかって攻める。
その上で離れるとまたじっくり見ておいて、ジャブから右へと繋げる。スミスの左トリプル反撃もあるが、ラスト10秒、ロープに詰めてボディを叩く。

はっきり劣勢になったスミス、5回と6回は挽回に出る。自ら出て、ワンツーのみならず左右フック、アッパーまで繰り出す。
好打もあるが、ベテルビエフにとっては、パワーでは自分が上という力関係。むしろリーチやスピードでは上回る、という相手が自分から来てくれるのだから、好都合でもあり。

7回、スミス攻めるが、ベテルビエフがロープ背負った位置から右フック、カウンターで決まってスミス止まり、追撃される。
ここでベテルビエフの「手練れ」ぶりが出る。軽めのパンチをインサイドへ集め、外から強めのフック。スミス崩れ、キャリアでは初のダウン。
スミス立つが、ベテルビエフ詰めに出る。スミスをロープに押し込み、腰が落ちかけるような姿勢に追いやった上での連打。
これでは踏ん張りようも無く、最後は振りの小さい右クロスでスミスが二度目のダウン。
また立ったが、セコンドが棄権の意志表示をして、試合が終わりました。


終わってみればベテルビエフの強さのみならず、賢明さが目に付いた試合でした。
技術的なことではなく、試合運び全体において、ヤード戦の反省が生かされていた、という印象です。
まず先手を抑えた上で、リスクのある試合展開を回避し、小さいが強いパンチをコツコツ当てて行くことで、自分の良い回りが来るのを待つ、という風でした。

カラム・スミスの実力は、ヤードとはまた違った部分でかなりのものがあるはずでしたが、まず先に攻め込むことで、その良さをある程度、抑えることにも成功した、とも言えそうです。
スミスに先行され、それを元手に試合を回されたら、あのリーチと長身、ストレートパンチの精度と威力は、ベテルビエフをヤード戦とはまた違った苦境に追いやっていたかもしれません。
しかしベテルビエフは、リスクを回避しつつ、その目を丁寧に潰していった。要所ではスミスの好打もあったのですが、全体としては順当な完勝に見える試合を作り上げました。



この闘いぶりを支えたものは、やはり、ライトヘビー級最強を決めるディミトリー・ビボル戦への意欲ではないか、という気もします。
何なら井上尚弥にも興味を示しているという、サウジアラビアの経済開発評議会を統べるムハンマド・ビン・サルマン王子なら、マッチルームのエディ・ハーンを介して、この一戦を好条件で実現することは、充分可能にも思えます。
現在、この両者の対戦に、欧米のスポンサーが大金を出せる情勢ではなさそうですが、サウジならば...あまり深く突っ込むのは止めますが、良いカードなのだから是非もなし、何も気にせず出資する、というところかもしれませんね。